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まるで雲の隙間から射す陽光の様な、まっすぐで気高い、そして暖かく輝かしい響き。
この生意気なクソガキのどこから、こんな音が出るのか。
「それがトランペットの音だ」
俺は動揺を、横柄な態度の中に隠した。
コイツはモノになる。
ガキも違いに気付いたらしい。不思議そうに自分の楽器を眺めている。
「じゃあ次だ。今の音を持続出来なきゃいけない。
どんなに長く延ばしても、どんなに早いパッセージでも、トランペットの音を出せ」
「うん。分かった」
「譜面を吹いてみろ。昨日吹いてたやつだ。
ホルストの『第一組曲』だな」
「知ってるの?」
「当たり前だろ。ナメんな。ゆっくりな」
ガキは俺が言った通り、ゆっくりと吹き始めた。
所々、音を間違えながら、しかしそれに気付かない。
コイツ、譜面が読めないんだな。
俺は手を叩いて、演奏を止めた。
「予定変更だ。楽譜の読み方を教えてやる」
「え、マジ?」
「楽譜を読めない音楽家は、字を書けない小説家と一緒だ。有り得ないんだよ、ソンナ事は」
俺はガキから譜面を取り上げて、目の前にかざした。
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