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モモチは正面から入ることにした。
あの薄汚い男にものを恵んだのだ。自分もきっと口を聞いてくれる。
確証のない自信がどこかから湧いてきて、
モモチは扉の前に立った。
取っ手を横に引くが、開く気配がしない。
今の扉は横に引くものではないことを、モモチは知らなかった。
ガチャガチャしている音に気づいたのか、
奥で作業をしている人が近づいてきた。
カチャ、と鍵を開けてノブを引いた。
高齢の穏やかそうな男の顔が見えた。
公園の男と違い、臭くもなく汚くもない。
そして、ドアを開けると同時に、微かではあるが、嗅いだことのないいい香りが漂った。
「おや、お客さん。今日はもうやっていないよ。明日の朝7時にまたおいで。」
「拙者、モモチと申す。貴殿に頼みがあって参った。」
「ほう。どのようなことですかな。」
男は少し警戒したようだった。
「...その...」
モモチは目線を左下に逸らす。
「長く...何も口にしていなくて...な...あの公園の男のように、何か、恵んではくれぬか...。」
物乞いははじめてのことであり、ましてや自分の知らぬ世界でこのようなことをするのは結構勇気がいるのであった。
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