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今立っている所より何百メートルも先に、かつては将軍がいて、口煩い家臣達がいて、その日の客であった滅多にない正装をした篠原がいて…
モモチの時間感覚でいうと、つい先程までは、そんな者達がいた城があったものだが、今は随分違うようだ。
そしてそこが城跡だとモモチはなんとなく感じとれた。
城跡には特別用はなかったが、3世紀半後の有様を目に焼き付けておきたかった。
眺め終わると、モモチは篠原から貰った地図を広げた。
そこにはあの城と、方向とその尺度だけが書いてある。
モモチは、篠原と約束をしていた。
―――――それは江戸にて
『未来はいつも戸惑いがつきものです。ですから、私の子孫が貴方の案内役になるよう、私の家を残すように勤めます。』
そう言うと、正装前に着ていた服の一部をちぎり、さらさらと筆を動かした。
『これが、その地図です。この城は…今は、ゆるぎない地位にあります。いや、私ども皆はそう信じているのです。しかし、時代はそれをぐらつかせ、風化してしまうことさえ有り得ます。けれども何らかの形で残るでしょう。それをもとに、探して下さい。』
篠原の言う通り、未来は未知であった。
城跡の建物はかなり立派ではあるが、この変わり様を江戸の民が見たらどんな反応をするのだろう。
万一、もとの時代に戻ることが出来たら、このことは将軍と、極力家臣黙っておこうとモモチは思った。
とはいっても、未来や過去の真実―つまり、時代の未知は原則口外にしてはならないという掟がモモチの産まれよりずっと昔からある。
ましてや、未来に来た時空忍者は記録に残っておらず、それだけにこの情報の取り扱いには気をつけなければならなかった。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか目的地に着いてしまった。
『…大丈夫ですよ。時代の流れに乗れば、何だって残せます。それと、受け継いでくれる人がいたら、ね。』
目の前の建物を見て、そんな言葉を思い出した。そして、今、地図の×印ある場所に佇んでいるモモチにはその言葉はなんともいえず、ただ痛かった。
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