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*・*・*
「かぐや、入るよ」
そっとドアを開けて中へ入ってみたけれど、そこにかぐやの姿は見当たらない。
「あれ? 一体何処に……。あ」
ふと、視線をずらした先にはベッドが。そのベッドにかかっていた毛布が、不自然に小山を作っていた。そう、ちょうど中に人がくるまってるみたいに。
「……小学生か」
僕も過去にはやった覚えがあるその行動。最初は「ここは僕だけの空間だぜ!」みたいな感じで意気込んでるんだけど、すぐに酸素が足りなくなって、結果的に体は毛布の中で頭だけ出す、というなんとも間抜けな格好になってしまうんだよね。
案の定、かぐやもそれと同じ状況に陥ったようで、毛布からゆっくりと頭を覗かせた。なんていうか、カタツムリみたい。
「…………あき、ら」
「ん?」
『竹取物語』からは想像もつかないかぐや姫の姿に笑いをこらえながら、かぐやの顔に目をやった。
「そんなに拗ねないで──ってかぐや、泣いてたの?」
「……泣いてないもん」
だけどその返答とは裏腹に、僕を見つめる藍色の瞳は明らかに泣いていたことを物語っている。
「……そんなに帰りたくないの?」
僕はベッドに腰を下ろし、かぐやの泣き顔を見ないように壁の一点をじっと見つめてそう言った。見たら、僕の“決意”が揺らいでしまいそうな気がしたから。
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