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「……帰りたくないです」
ぼそぼそと、かぐやが返事をした。
「なんで?」
「月での生活は退屈です。屋敷の外に出ることは許されていないから、一緒に遊んでくれる友達はいないし。あそこには自由がないのです。けれど、今回はやっと家出に成功して地球に来ることが出来ました。彰とお友達になれたし、ここでは自由に過ごせます。帰りたく、ありません」
最後の言葉は、かぐやの切実な願いみたいだった。やっぱりお姫様っていうのはお伽話で聞くように束縛された生活を送るものなんだな。
「彰は、いいのですか?」
「え? なにが?」
「かぐやとハクが居なくなっても、彰は寂しいと感じないのですか?」
かぐやの問いが、僕の胸に響く。2人が居なくなったら、また今までの毎日に戻ってしまう。父さんと母さんは仕事であまり家に帰ってこれないし、姉さんも大学が長期休業の時しか戻らない。ほとんど僕は1人の時間を過ごさざるを得ないんだ……。
それは勿論寂しくないと言ったら嘘になるけど、かぐやの運命を戻すにはこのまま引き止めてはおけない。もう歌を詠んでくれるような状況にあるなら、早いうちに行動をおこした方がいいだろう。ハクだって、それを望んでる。
「そりゃ僕だって寂しいよ。でも、かぐやは戻らなくちゃ」
「……彰まで、そうやって言うのですか」
今にも泣き出してしまいそうな、悔しくて仕方ないような、そんな声が背中の方から聞こえた。
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