145人が本棚に入れています
本棚に追加
逃げていく黒猫の後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認すると、狐は満足そうにマドレーヌを口へ運んだ。
い、一体どんなリアクションをするんだろう……。不味そうに顔を歪めるかな。勢い余って昇天してしまうかも……。
という僕の心配はお構い無しに、狐はマドレーヌを一口で平らげる。
僕達はゴクリと生唾を飲み込み、じっと狐を見守っていた。ドキドキしながら待っていると、狐は思いがけない一言を発した。
『……うーん。まいうー』
「『なんでだーー!!!!』」
思わず立ち上がって叫ぶ僕とハク。その殺人兵器を食べておいて「まいうー」? で◯や? で◯やですか?
「──ってあれ? 今、喋った──?」
あれ? おかしい。おかしいぞ? 今この狐、「まいうー」って……。
『び、びっくりしたぁ~……』
よくよく目をこらして見ると、そこにあったのは見覚えのある可愛らしい狐の姿──。
「も、もしかしてこの狐……黒陽っ!?」
『あ、なんだ、少年じゃないか。それに白幻。あ! かぐや様もいる!』
へら、と笑う狐と、不機嫌そうな子猫と、驚いたまま固まる僕と、手料理を誉められて嬉しそうな月のお姫様が偶然にも一堂に会したこの晩──。雲の向こうには、白く霞んだ満月が覗いていた。
最初のコメントを投稿しよう!