第壱話 ANGEL ASSAIL(天使、襲う)

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「おい! 石っころ! てんめー! どこ行きゃがったんでぇ!」 硝煙と土埃と砂埃が舞い上がる。 爆音と悲鳴が渦巻いている、倒壊したビルとビルの狭間。 一人の小柄な少女が敢然と立ち上がった。 騒音に掻き消されないように、上空に向けて蛮声を張り上げる。 少女は、オーバーオールの残骸を張り付かせた、だぶだぶで薄汚れた、元は白かったであろう半袖Tシャツを上半身に纏っている。 オーバーオールは太腿の半ば辺りでズタズタに引き裂かれていて、日焼けした小麦色の素足を晒していた。 そこかしこに擦過傷や痣が目立つ痛々しい姿。 足元は黒いカンフーシューズのようだが、薄汚れた灰色をしている。 強(こわ)い茜色の髪は千々に乱れて腰まで流れ落ちていた。 一重瞼で白目がちの目は細められ、眉間には深い縦皺が刻まれる。 「ちっ」 舌打ちすると、再び身を屈めた。 辺りを油断無く窺うが、濛々と立ち上がる様々な煙やら埃やらで、視界は依然、不良な侭だ。 ティーンネイジャーと思しき少女は、瓦礫の合間を、膝立ちしながら進んで行く。 遠くで落雷のような轟音が絶え間無く鳴り響いていた。 風に乗って人々の悲鳴が押し寄せて来る。 埃塗れの、酸っぱくて、獣臭い、噎せ返るような鉄錆の芳香が少女を咳込ませた。 涙ぐむ。 肩で息をしながら、しゃがれ声を出して、喉の奥深く迄入り込んだ異物を吐き出そうと試みた。 そのまま、べっ! べっ!と何度も地べたに唾を吐く。 髪を掻き毟る。 「ぶがあぁあぁ!」 苛立ちも顕に少女は吠えた。 「何なんだよっ! っちくしょー!」 苛立ち紛れに叫ぶが、又直ぐに咳込んで仕舞う。 「何でこんなコトんなってやがんだっ、ったく、バッカみてー」
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