第壱話 ANGEL ASSAIL(天使、襲う)

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「バッカミテー」 突然、何処からか発せられた、イントネーションの不自然な、甲高い声。 驚いた少女は辺りをキョロキョロ見回した。 しかし何も発見出来ないで、顔面を歪ませ―― 「バッカミテー」 ゆらあ、と優に三メートルはありそうな影が少女を見下ろしていた。 声は、そこから発せられている。 (何時の間に?) 口をあんぐりだらし無く開け、茫然自失の体でその場に立ち尽くす少女。 もやもやした煙が晴れるに従い、影の全貌が明らかになって行く。 翼がある。 一対の大きな翼だ。 それは透き通る翼だ。 透き通る、半透明な猛禽類の翼。 そして透き通っているのは、何も翼だけではなかった。 全身隈なく半透明に透き通って、クラゲか何かの深海魚を思い起こさせるような肌。 「何じゃこりゃ……」 ゆらあ ゆらあ ゆらゆら ゆらり ゆら ゆら ゆらり 鉄筋を剥き出しにした、コンクリート塊の中から次々に現れる、半透明の外観をした、異形のもの達。 翼を生やした巨人達が、四方八方から少女に近寄る。 そいつ等は両性具有の裸体を惜し気も無く晒していた。 申し訳程度に巻き付けられた布切れは、肝心な部分を隠す役は果たしていない。 乳房も男性器も丸見え。 透き通った半透明の身体を通して、その向こうの風景を滲ませている。 歪んだ、残骸の景色。 「バッカミテー」「バッカミテー」「バッカミテー」「バッカミテー」「バッカミテー」「バッカミテー」「バッカミテー」「バッカミテー」 小馬鹿にした口調で口々に囃し立てる。 そして囲む。 全部で八体だ。 八体で取り囲む。 それは丸でカゴメカゴメのように。 お互いの手を結んで、少女の周りを、ぐるぐると回り始めた。 溢れんばかりの嫌らしい笑顔を浮かべて。 少女はその様子に、呆気に取られて、立ち尽くすだけで為す術が無い。 異形の巨人達は、筋肉質の女性ような姿形をしていた。 しかし、その股間には、男性器。 少女の周りをぐるぐる、ぐるぐると回り続ける。 その輪が、少しずつ少しずつ、じわじわと狭まって行く。 少女は「あ、ああ……」と漏らすだけ。 次第に身体が震え出す。 歯の根が合わなくなる。 顔が青褪める。 何とか睨み付ける事だけは忘れていない、が。
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