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その人は蝉の死骸を見つめながら、何やらぶつぶつ言っていた。
私は興味半分で近づいた。
「この蝉…どうしたものだろう。踏まれ潰されるのも悲惨だが、踏んだ方も悲惨だ。かと言って直に触るのも抵抗がある。さて、どうしようか」
炎天下の大通り、たくさんの人達が足早に通り過ぎる中、立ち止まりひたすら蝉を見つめるその人は異常に見えた。
私はその辺にある木の棒を渡した。
その人は黙って受け取り、蝉を道の脇に移動させた。
私をチラッと見つめ
「ありがとう」
とだけ一言呟き歩きだした。
私も歩き出した。
方向が一緒だったらしい。
その人は高校の中へと入っていった。
そこは、私の母校だった。
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