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「元就様」
呼ばれるまでもなく元就は顔を上げ、目の前で畏まる部下に鋭い視線をやる。その手には白い紙が握られていた。
「長宗我部からの文です」
部下はしずしずと近寄り、元就の手の届く範囲内に手紙と思しき紙を差し出す。
「ほう……?どれ」
発せられた意外な差出人の名に、元就は微かに眉を寄せて手紙を受け取った。開いて末文の更に左を見れば、確かに長宗我部の名と花押がある。
「文など書けたのだな」
嘲りとも感嘆とも取れる言葉を呟いて、元就は改めてその内容に目を通す。
「……これを運んできた輩を呼べ」
読了して手紙を几帳面に畳むや否や、彼は次の命を待っていた部下に向かって口を開いた。彼は驚いて顔を上げ、困惑を映し出したそれを主君に向ける。
「しかし」
手紙を持って来たのは飽くまでも運び屋であり、使者ではなかった。外の見回りから取り次がれた頃には、すでに男の姿は無かったと聞いている。呼ぼうにも時間がかかること必定であった。長宗我部に伝えたいことがあるならば、探すなどせず、むしろこちらから使者を立てた方が早いのではないか。心中に湧いた提言を口にする前に、元就は切れ長の目を更にきつく細めて彼の思惑を切り捨てた。
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