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──クリスマスイブ……
暖冬の気配の強かった今年。
しかしイブの今日、夜が近付くにつれて珍しく雪がちらつき始めていた。
繁華街から少しだけ外れた一角。
そこに隠れ家風のバーが建っている。
いや、隠れ家というにはかなり有名になりすぎたかも知れない。
現に、金曜日の夜などは入れないことも多いぐらいだ。
──けれど、そんな有名店の前には、今日は『貸し切り』の看板が掲げられていた。
「いらっしゃい!」
ドアが開くと、軽快な声が聞こえる。
店の奥、カウンターの中から笑っているのは、この店の店長であるシンだ。
「寒かっただろ?珍しいカッコして」
柔らかい茶髪を軽くセットしたシンは、自分こそ珍しくチェックのネクタイにジャケットを羽織っている。
合わせたボトムがデニム、というところはいかにもシンらしいが、シンにしてはフォーマルな装いだ。
「コートはそっちにかけといて。今日は忙しいから、わりーけどセルフで頼むな!」
確かに、常になくかなり慌ただしい気配が見える。
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