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一瞬、シンの姿を探して、キョロキョロと周りを見回してしまう。
ようやく、自分が1人だということを思い出して。
大きなため息をついた。
「夢かぁ……」
言いながら、苦笑いしてしまった。
頬を触ると、まだ夢の余韻のように涙が残っていて。
「懐かしい夢を見ちゃった……」
まだまだ見ていたかったような、そんな切ない気分。
幸い、近くの席の乗客は、寝ているか降りる準備を始めているかで、愛の涙には気付かなかったようだ。
愛は手を伸ばすと、ずっと下ろしていたブラインドを少し上げて、下に広がる町並みを確認した。
懐かしい景色。
屋根の色や、建物の並び。
深い緑。
忘れかけていた、日本の景色に心が踊る。
…ただいま。
微笑みを浮かべながら、心の中で、そう挨拶をして。
──愛が、同じ景色に『さよなら』を告げてから、4年半。
柿花愛、22歳。
新しい生活の、幕開けだった。
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