追跡とストーカー

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姫野と田中はゆっくりと歩きながらN大学に向かった。 二人とも朝食がまだだったので、途中でマクドナルドに立ち寄って、ハンバーガーを二種類購入して、歩きながら食べた。 「姫野、口にケチャップついてるよ」田中が姫野の顔を指しながら言う。 姫野はマクドナルドの紙袋の中から紙ナプキンを取り出して、口を拭いた。 「あらら、口紅がのびちゃったよ」田中が笑う。 姫野は口を拭いた紙ナプキンを見た、確かに、ケチャップの赤に混じって、口紅の薄いピンクがついている。 「ほんとだ、どうしよう、あたし口紅持ち歩いてないのに…」 「私の貸してあげようか?同じ様な色だと思うけど」田中が自分のバッグからポーチを取り出す、その中から口紅を出して、姫野に見せる。 「ちょっと色が濃いなぁ…」姫野が田中が差し出した口紅の色を見ながら言った。 「そうかなぁ、同じぐらいだって」田中が無理矢理に姫野の手に口紅を握らせた。姫野はそれを自分のバッグにしまった。 それから歩くこと十分、N大学の入り口が見えてきた。 大学の中に入り、授業まで時間的にはまだ余裕があるので、姫野はトイレに行って口紅をつけ直した。 その間、田中は携帯電話をいじっている。大方、最近知り合った男とメールをしているのだろう。 つい先日に彼氏と別れて立ち直れないと言っていたのに。 懲りないやつだ、と姫野は声を出さずに、鏡越しに田中に言った。
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