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そんな彼らの視界が、ふと暗くなった。
シリウスは立ち止まり、頭上で太陽を覆い隠すそれに目を遣る。
二階建ての家屋を優に上回るであろう巨躯。
鉄など問題にならない程の強度を誇る、全身を覆う臙脂の鱗。
太く発達した、力強さを感じさせる四本の足。
そして自由に大空を舞うための、巨大な両翼。
一般に『ドラゴン』と呼ばれるそれは、空中で器用にホバリングしながら黄色い瞳で彼らを見下ろしていた。
「こんなところにドラゴンとはな……」
シリウスが例の如く無表情でそう言うと、ドラゴンは口を大きく開き彼に向ける。
鋭い牙が並ぶその奥に、まばゆい輝きを放つ赤い火の玉が出来上がった。
少し距離がある彼らにさえ肌が焼けるような熱気が感じられる程の高温の炎。
まともに喰らえば骨まで灰になってしまうのは明白である。
そんなドラゴンの様子を見た後ろの二人は急に焦ったような表情になり、右手をドラゴンに向けた。
そしてその手から一人は雷の魔法を、一人は炎の魔法を放つ。
隊長に『謀反人の監視』を任される程に優秀な軍人である彼らが放ったのは、勿論上級魔法。
学生では使える者が限られている上級魔法と言えども、彼らが使うには詠唱など必要ない。
彼らの手から極太い雷の束と炎の槍が生じ、真っすぐにドラゴンに襲い掛かる。
ほぼ同時に命中したそれらは、目を開けられない程の閃光と鼓膜が破れそうになるほどの轟音を立てて炸裂した。
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