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「彼は今一人暮らしをしていて、家族とは絶縁に近い状態らしい」
「何故です?」
キリサキは大臣に聞いたものの、その答はなんとなくわかっていた。
「まあ……彼は所謂、落ちこぼれなんだ。それも学園史上最低とまで言われている」
ああやっぱり、とキリサキは心の中で納得した。
貴族の跡取りが落ちこぼれだなんてあってはならない。
もしそのような者がいれば家から追い出されて籍を外されることもあった。一昔前までは。
このご時世にこんなことになるのは、カーライル家が未だに野心を持っている確たる証拠であろう。
不意に、キリサキが大臣に頼み込む。
「この子の指導にまわってもよろしいですか?」
その言葉に大臣は表情を変えずに返した。
「気になるのか?」
キリサキは頷き、そして言った。
「もしかしたら、この子をマークしておく方が良いかもしれません。家族に疎まれているのなら、家を嫌いその業を調べているかもしれませんから」
「――というのが表向きの理由か?」
全てを見透かすような大臣の瞳を見て、やっぱりこの人はお見通しか、とキリサキは心の中だけで嘆息した。
「まあいい。お前の言うことにも一理ある。双子には他の人材を派遣しよう。お前は兄のマークをしてくれ。話は以上だ。」
ありがとうございます、と一礼してキリサキは踵を返した。
「かつての己でも見たのだろうな」
部屋を出る背中を見て、大臣はボソリと呟いた。
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