一章

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羽音の部屋の襖をそっと開けた。 羽音は机によりかかったまま眠っていた。 まひるは、ホットミルクを机の端に置き、膝かけ程度の短い毛布を肩にそっとかけた。 「余程疲れてるんだね、羽音。私には何も言わないし責めたりもしない。 私、羽音がボロボロになってくの嫌だよ」 言っているうちに涙が溢れて止まらなかった。 羽音の重荷になっている事が辛くて、悲しくて。 すると突然眠っていた筈の羽音の腕が延び、まひるの顔を自分の顔まで引き寄せた。 え…― 一瞬何が起きたのか分からなかった。 でも今目の前にあるのは 羽音の端正な顔。 そして唇の感触。 羽音はゆっくりと顔を離し困ったように笑った。 「泣かしてばかりだな、 守ってやりたいのに… ちっともうまくいかない。今まひるといる生活を 苦に思った事なんて 一度だってないよ。 それにまひるが離れていったあの時決めたんだ、 今度また会えたら絶対離さないって」 ずるい、駄目だよ羽音。 私って凄く単純なのかもしれない。 だって、羽音のそばにいたいって思ってる。 羽音を離したくないって。 「少しだけそばに…いてくれないか?」
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