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家の者にしか知られていない裏口に行くと一人だけ監視員がいた。
朱雀という三十半ばの男だ。
「朱雀、父さんがお呼びだ」
彼は素直に僕を信じたようで、父のいつもいる書斎へと足早に去っていった。
「楽勝」
僕は裏口をするりと抜け、とりあえず家からの距離を遠ざける事にした。
行き着いたのは小さな公園だった。
「羽音。」
すると僕の後ろには
同年代ぐらいの女の子が
ぽつりと立っていた。
彼女に何故か見覚えが
あった。
「やっぱり羽音。
久しぶり、私まひる。
覚えてる?」
忘れる筈なんてない。
当時小学生だった僕たちは近所同士だった事もあり家門を通してこの街の様子や彼女の通う学校の事や僕の今の生活についてなどいっぱい話した。
僕の唯一の安らぎが彼女だった。
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