砂の上の町

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サァァァ… 「雲が…」 「いやな風だね…。  たぶん、嵐になるよ。  急ぎな、イファナ。  じき、タヒームだ…」 「はい」 モロと呼ばれる 分厚い砂除けマントに 守られていても、 肌があわ立つのがわかる。 砂嵐の予感は、この地に 生きるものに、 いいようのない 昂揚を感じさせる。 旅慣れたイファナでも、 それは変わらない。 タヒームの城壁が 見えてきた。 明日はこの町で市がたつ。 しかも、三月に一度の 大市だ。にぎやかな音が、 ここまで聞こえてくる。 いくつもの商隊が 店を出すはずだ。 たぶん芸能者のテントも あるのだろう。 砂漠に暮らす人間には、 二種類ある。ひとつは、 町の民。点在する オアシスや、河のそばに 定住し、耕作を 主として暮らす人々だ。 もうひとつは、流浪の民。 行商や芸能者など、 特定の住処を持たず 旅に生きる人々だ。 この二種類のグループは 古くから微妙な 緊張関係にある。砂漠では 人の暮らせる土地は 限りなく少ない。もちろん 土地が養える人間の数も。 だから、運良く住処を、 土地を得た者たちは、 その恵みを横取り しようとする流れ者を、 徹底的に嫌う。 苦労を共にしてきた 土地の仲間と助け合う ことに異論はないが、 どうして、何の 関わりもない者まで 助けてやらねばならない? しかも、こいつらは 恩恵を受けるだけ 受けたら、どこかへ 立ち去ってしまうのだ。 返礼すらしない者に 親切にしてなんになる? これが、町の民の本音だ。 しかし、痩せた土地に 縛られた彼らは、 流浪の民が運んでくる 様々な品物なしには 生活していけない。 副業として生産した織物や 器などを金にかえたり、 目新しい情報を得たりと 流れ者を必要とする 切実な理由もあるのだ。 だから、町では市を たてるのだ。その期間だけ よそ者を受け入れ、 交易の恩恵を受ける。 ただ、表面上どんなに 友好的に振る舞っても、 町の民には流浪の民に 対する、拭いがたい 差別意識があった。
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