砂の上の町

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流浪の民だって、 そんなことには 気付いている。とはいえ、 商人のしたたかさの前では そんなことはどうでもいい 問題なのかもしれない。 ただ、普段は自由を誇り、 縛られることを憎んでいる 彼らにも、故郷を 持たぬことは、大きな コンプレックスだった。 無知を恥と思わず 安心しきって生きている 町の民は、流浪の民に どうしようもない 嫉妬を起こさせた。 また逆に欲望に忠実で、 富と共に移動する 流浪の民の姿は、町の民に わけもなく嫉ましいものに 思えるのだった。 このように長きにわたって 距離を保ってきた両者も 近年は、必要に迫られて 融和に傾くことも 多くなっていた。 身近に接するうちに、 暗黙のルールのような ものが生まれ 均衡が成り立った せいかもしれない。 ただ、例外もあった。 《魔術師》についてだ。 町の民は魔術師を、災厄を 運ぶものとして、いまなお 徹底的に忌避している。 魔術師の汚名を 着せられた者は すさまじい迫害に遭い、 命を落とした者も 少なくないという。が、 かといってその系譜が 途絶えることも ないのだが。 畏れられるものほど 求められる。 忌まわしいものに 魅了される。 それは、人の世の心理だ。 魔術師のあやつる呪いや 毒薬、占いへの需要は 確かに存在している。 だから、魔術師たちは 今でもひっそりと 町々を巡っている。 表向き、何かを 商うだけの無害な 流浪の民に擬態して。 イファナの師匠であり、 育ての親であるカーナンは そんな魔術師のひとりだ。 他の同胞とは、あまり 付き合いがないので、 はっきりしたことは 言えないが、どの町でも いわく有りげな客が次々に 訪れるのを見る限り、 かなりの実力者らしい。 それなのに、 表の顔であり、副業である 薬師の仕事でも評判が高く 砂漠中の市を管理している ギルドにも正式に 加盟している。砂漠の 表にも裏にも通じている 不思議な人だ。長く行動を 共にしているイファナにも カーナンの正体は つかみ切れていない。
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