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だからワシは止めたんじゃ。こんなとこオランダマンでも気付かんぞ!とワシは取り乱しかけていたが、エレベーターが止まったわけではなかった。
ゆっくりとドアが開いた。照明の代わりに花火の光が部屋の中を照らしてくれていた。
「花火の音だったみたいですね。間に合ってよかった」
妻ははしゃぎながら窓に飛び付いた。ワシもそれに倣い、煌びやかな景色を堪能する。眼下では街が白と黄色の光を惜しみなく放ち、遊覧船がある辺りではレーザーショーをやっているようだ。そして正面では様々な技巧を凝らした花火が打ち上げられている。
それは星型やハート型に留まらず、クローバー型やチューリップ型、しまいにはオランダマンの顔を模したものまであった。
ワシがそれらに釘づけになっていると、妻が唐突に告白した。
「一つだけ、嘘をつきました」
「……なんじゃ、ワシが取り置きしていたプリンを食べたの、やっぱりお前だったのか」
「違いますよ!」
ではなんだというのだ。ヨーグルトか、かりんとうか、思い出したらキリがない。というか、ボケても食い物の恨みは忘れないものなのだろうか。いや、ワシが自分で食べたのにそれを忘れている可能性も否定できない。などと自問自答している内に、妻の告白を聞き逃してしまっていた。
「すまん。なんじゃって?」
「だからね。朝に言ったでしょう。ハウステンボスに行きたいって言い出したのはあなたよ、って。あれ、嘘なんですよ。本当は私がここに来たかったの」
「なんじゃ、そんなことか」
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