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実はこのオープン記念プレゼントは風香だけで用意したものだ。品物は香料を含んだタオルだけという質素さから、風香が手作りクッキーを忍ばせ包装した。
真はそれらを殆ど彼女に任せていたが、予想外な所に不器用さが現れるようだ。
「あ、そういえば店長の髪ぃ、いつ切らせてくれるんですかぁー?」
「……ま、まだこのままでいいよ」
淡々としながらもやや焦りをみせる真に風香の頬は膨らむ。毎回の交渉とはいえ、彼女も痺れを切らしてきたようである。真をセット面に座らせようと、必死で腕を引っ張り出した。
「わっ、やめてくれ! その時がきたら切ってもらうからっ」
「いつなんですかそれっ! いい加減ボサボサし過ぎですよっ」
「いいんだよまだっ」
「ダメですよ! さては私のまだ未熟な技術が恐いだけでしょう」
「そうだよっ。まだ禿げたくはないからね!」
――結局、真の四の字固めの技で風香は動けなくなってしまった。
そこへ、生暖かな一陣の風。扉の外には黒い人影がこちらへ歩み寄って来ているのが分かる。
「来たみたいだね」
「ですね。……店長、技を解いて下さい」
以前とは違う風。決して強くないが湿度が変わる不気味さに、風香は身構えて入口の扉を静かに開けた――。
「いらっしゃいませ。ようこそ『†TRUTH†』へ」
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