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その先は鳴咽に変わり、和子は椅子の肘掛けを掴んだ。その力は強く、彼女の感情を表すように椅子ごとガタガタと小刻みに揺れる。
その様相は風香の恐怖心を煽るのに十分だった。
が、真は違う。
「落ち着いてハッキリ言って下さい。私が貴女の心を開放します」
真は平然としていた。
和子にはその言葉が天の助けのように聞こえたのか、細い目を見開いた。急に落ち着きを取り戻し、激しかった揺れはピタリと止まった。
緊張で固くなっていた風香は、その時初めて自分の息が荒くなっていた事に気が付いた。
(ハァ、私までおかしくなりそう……)
一瞬の隙も許されないような空気が風香には耐えられなかった。だがそこはプロである店長の真を見習って、冷静さを装う。
低く渇いた和子の声に反応するように、再び鏡の映像が変化を見せた。
映し出されたのは、先程の和馬と向かい合い微笑み合うひとりの若い女の姿や、互いに並んでこちらを向いたまま何かを話す姿等だった。女はどう見ても和馬より少し年上に見える。
体は華奢だが、黒いセミロングのストレートヘアと淡いピンク色の地味なデザインの服装が年上という印象を更に強めた。加えて落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「こんな女の……どこがいいんだか。私の方がまだ若く見えるわよ」
吐き捨てるように言う彼女に、真は静かに頷いた。
「なるほど。和子さん、貴女は……息子さんがその女性を選んだ事に腹を立ててるんですね?」
真の言葉に驚いたのは風香の方だった。
(えっ、そうなの?)
風香の考えを背中に感じ取ったのか、真は静かに振り向き人差し指を自分の唇にあてた。
(む、口に出してないのに。店長にはお見通しなのね)
和子は真の言葉に反応したかのように顔を上げて言った。
「息子? 息子ですって? ハンッ、そうよ。血は繋がってないけどね!」
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