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和子の自嘲する言葉に驚愕したのは風香だけではなかった。さすがの真も息を飲んだ。
先程の映像から連想すると、最初に映った様子は明らかに“親子”である。幼稚園児ぐらいの男の子と若い二十代前半の母親……という風にしか見えない。しかもその男の子は面影を残して成長した。
だが“血は繋がっていない”とは?
真は戸惑いながらも事情を聞いた。
「あの……それはどういう事ですか?」
「彼は……和馬は、もともと施設にいたのよ。そして私は大好きな子供が出来ない体になってしまったと知った時、私に似た彼を迷わず引き取った――でもその後、夫は事故で死に……私と和馬だけが残された日々を」
そして、いつしか私は彼を一人の男性として愛してしまった……いや、それは錯覚なのかもしれない。まだ幾分若き時に、夫婦という絆を深めるはずの相手を失い、血の繋がらない少年と長い道のりを二人きりで歩んだ末路。
なるほど、と真は事の成り行きに頷いた。風香にもようやく事情が飲み込めた時、和子は赤い双眸を光らせて肩を震わせる。
「私は最大限の愛情をいつも和馬だけに与えていた。なのに! なのに!」
過去の想いに縛られた彼女の怨みに似た感情が爆発し、体中から瘴気が立ちのぼる。
すると真は、ゴツゴツした彼女の両肩に迷いなく手をおき、優しく揉みほぐしがら奏でるように言葉を紡ぐ。
「和子様。少しリラックスしましょう。貴女の頑なな心が今の姿です。きっと、彼も貴女の事を愛してますよ。だからこそ、和子様とそう変わらない年上の女性を選んだのではないですか? それに男というものは、母親に似た相手を求めてしまうものです」
真のマッサージする手が、それを包み込むように、白く柔らかな光を生み出した。
光を帯びた優しい手に肩をほぐされていく。和子の瘴気は、徐々に小さくなっていった。
再び落ち着きを取り戻したのか、和子はまた俯き小さく呟いた。
「……ええ。分かってるわ。分かってるつもりよ。でも和馬は、私と別居という形を取った。私はいつも、あの子を気にかけてわざわざ会いに行った。だけど、あの女は!」
「貴女を近付けたくなかったんでしょうね。彼女もまた、貴女に嫉妬していたから」
「――――なっ!!」
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