初めてのお客様

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「それ、どういう事?」  初めて見せる狼狽した和子の口調。真の言葉に思考がついていかなかった。彼は少し首を傾げて言った。 「まだ分かりませんか? おそらく、別居を申し出たのは妻になった相手の女性であって、和子様と和馬君を見ていて母親であるはずの貴女に嫉妬していたのでしょう。彼女もまた、心の寂しい人だったんですよ」 「ま、まさか! 別居は和馬の口から聞かされたのよ? しかも私を一人にしておきながら、一度も向こうから足を運んでこない」  和子の心を支配してやまないのは和馬ただ一人。  だがその真相は、鏡越しに映る情報から人間の心を読み取る能力を持つ真だからこそ言える事だった。 「それは貴女から見た和馬君でしょう? 普通の親なら、嫁がそうさせたと思うはずですよ。でも貴女は彼を一人の男性として見ているから、“血が繋がっていない他人”だとどこかで思ってるから“信じられない”だけでしょう?」 「――っ!」  心の的に矢が刺さったかのように和子の体がピクリと揺れた。真の言葉の意味はそのまま生前の自分自身を投影し、今に至る事を突き立てられたようなものだった。  ――抱いてはいけなかった感情。けれども抱いてしまった愛情。親子としてなのか男女としてなのか、なんと曖昧な愛情。そんな自分が汚らわしいとさえ思った。  最初から矛盾していた自分の言葉に、今更ながら恥ずかしさを覚えた和子は再び呟くようにぽつりぽつりと言った。 「そうね。私自身が何より自信を持てなかった。というより、自分自身の感情を何処かでごまかしていたのかもしれない。一人の男性として愛してしまったと言いながら、一方的な想いから立場を利用して逃げて……全てを彼のせいにして……」 「それに、貴女は薄々気付いてたんでしょ? 彼もまた同じ気持ちだと」  覗き込むように尋ねる真の言葉は容赦なく和子の心理をえぐる。  互いに抱く境界線の定まらない感情。 「そうよ。でも確証は無かった。だから……だから何もかもが不安になる。なのに、彼女は私から和馬を奪っていった!」  真はフッと微笑み、風香を振り返る。 「風香くん、和子様のシャンプーとトリートメントA、お願いします」 (は? え? まだ話の途中じゃないの?)  いきなりの指示に戸惑うも、何も口を挟めない空気に飲まれ、渋々和子をシャンプー台に案内した。
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