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風香は手を休めず考えていた。すると、和子の方から話し掛けてきた。
「ねぇ、さっきのシャンプーには何が使われていたの?」
確かに気になるだろう。彼女には『薔薇』が嫌な香りに感じたのだから。
「あ、あれは黄色の薔薇のエキスが配合されてます。生前の感覚とは違い、花言葉によって“効能”が人それぞれ違いますが……」
和子の後ろに立ったまま、以前のように簡単な説明するも、内心ビクビクしていた。
(私、馬鹿だ。花言葉聞かれたらどう応えればいいのよ! 前とは違うんだからっ)
ここは自分がでしゃばれる程単純では無い、と痛感しだしていた。自分の選択はあまり優しくは無かったのだから、と風香はまた反省している。
和子は背後で萎縮する空気を感じ取ったのか、意外な反応を示した。
「そう。私の為に……ありがとう。私、本当は早く……楽に、なりたいの」
途切れ途切れに言う彼女の肩はどこか憂いの表情を見せていた。その後ろ姿はどこか儚げで、今までの印象とは掛け離れているようにさえ思える。
「――和子さん。ま、任せて下さい! 私頑張ります!」
妙な具合に力が入り、風香自身その言葉に顔を紅潮させた。照れ臭さでタオルドライする手の動きが激しくなる。
次の段取りを進める為、風香はトリートメントの選択を急いだ。
(彼女も本当は、早く浄化されたいんだ。そうか、そうだよね。だから此処へ来だもん。その想いを汲み取ってあげなきゃ。彼女にとって必要な花言葉は――)
風香はひとつのビンから透明の液体を、手の平に取り出した。この世界ではこれらは透明色であり、それはどのようにも変化する。
つまり、使ったお客様の意識に染まるのであって、最初から外見的な色素など不必要だからだ。
風香はそれを、和子の黒髪に両手で包み込むように塗り、万遍なく指を通していく。
柔らかに、優しく、真心を込めて――。
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