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和子の言葉が終えると同時に、風香の意識が戻った。マッサージをしていた手が止まる。気が付けば、風香の額には汗が滲んでいた。
(終わっ……た?)
息遣いが微かに上がっていた風香に、和子は穏やかな声で話しかけた。
「ありがとう。私はもう大丈夫よ。素晴らしいマッサージとトリートメントの香りだった。あれは何?」
「あ、ああ……あれはゼラニウムです。お気に召してよかったぁ」
「ええ、私にピッタリだったわ。その花言葉は?」
どうやら浄化したのだと分かり、安堵感に満ちた表情を浮かべた風香は笑顔でそれに応えた。
「はい。“あなたありて幸福”です。その花言葉に私の力をのせました」
「なるほどね、ふふふ。まさにその通りだったわ。ありがとう」
ありがとう、と言われて嬉しく思うのは当然だろう。
だが風香はそれ以上の喜びを感じた。背後から見る和子の肢体に大きな変化があったのだ。
青白くくすんでいた腕は、瞬く間に血色良く変わり弾力を示すような艶を見せた。ゴツゴツしていた筈の背中や首はまるで生者のようである。
(やったーっ! 和子さんが浄化したぁーっ!!)
跳びはねて喜びたい所だがそれを押し殺し、風香はすすぎの為に和子の上体を再び椅子ごと倒した。
白いシャンプーボールの中に沈んだ和子の顔が、この時ハッキリ見てとれた。
(うわ、何だか品のある顔立ち。血色も良くなって本当に――綺麗)
溢れそうになる涙を必死に抑え、笑顔に変えた。今までの中で最大の達成感が、電流の如く彼女の体内を駆け巡る。
(本当によかった。これが……私の本当の仕事なんですね、店長)
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