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ビロードのような艶を取り戻した漆黒の髪に、歓迎の白いコームと祝福を与える黄金の刃が造形を生み出していく。それらを華麗に操る手は淡い黄金のオーラを放ち、鼻歌に合わせて舞う。
和子はみるみるうちに変化していく自分の姿はもちろん、カットをしながら鼻歌を唄い優雅に踊るバレエダンサーのような真に目を奪われた。
彼の手さばきはまるでマジシャン。やがて彼の背中から白銀の羽根がバサリと広がり、鼻歌と呼応するように金粉を舞い降らす。
その姿はあまりに柔らかく、神秘的で優しい。
髪を切られている事も忘れてしまう程、和子は魅了されたようだ。彼女の頬は淡い桃色に染まり、サクサクと奏でるハサミと鼻歌に聞き耳をたてているうちに口元が緩む。
鏡ごしに放たれる黄金のオーラはやがて彼女をも包み込み、金粉のシャワーを一身に浴びて至福感を増していく。加えて辺りに漂い出す香りに、和子は恍惚とした表情を見せ、その全てに酔いしれた。
それはまさに、幻想的で緩やかな世界。
やがてハサミの先端が重なるたびに金粉が断続的に舞い散る程度になる。それが終焉を迎えた時、真はまるで舞台上の役者が観客に頭を下げるような仕草で手を胸にあて、和子に言った。
「終わりました。これからスタイリングに入ります」
和子は言葉が出なかった。与えられた恍惚感と終わってしまった事の物足りなさ。
だが再び始まるエピローグの幕開け――。
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