初めてのお客様

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 この世界でのスタイリスト、つまり技術者は皆、似たように白銀の羽根を持つが、それは『許し』や『慈悲』の力を放つ時だけ現れる。  だがその力には、個性と力の差がある事を風香は知らない。  あいにく彼女には与えられていない為か、その差を読み取る事ができず、毎回多くのスタイリストの技を見ては感動している有様だ。  今は自分のできる事をするしかないのが現状である。  やがて真が軽々と右手にドライヤーを持ち、左手でスタイルを形作っていく。  指先を動かし根元から風を入れ、一束一束を丁寧に方向付けしていく。徐々に毛先をつまみながら形作るその姿は、先程までの緩やかな世界ではない。  真剣な眼差しで、鏡ごしに和子の顔立ちと比較しながら、まるでひとつの作品を作り上げるようである。 (ああ、外跳ねのボブかぁ。よくあるスタイルだけど確かにシルエット的に軽さが出て明るく見える。何より、今の和子さんにとても似合ってる)  鏡ごしに覗く風香は勝手に評価しては頷く。が、真の仕事はここからが本番だった。 「和子様、では最後にスタイリング剤つけますね」  そう言ってワゴンの引き出しから取り出したのは、桜模様が描かれたピンク色のトリートメントオイルスプレー。 (え!? いつもはガーベラピンクのスプレーかワックスだったような……。え、なんで?)  狼狽する風香の視線をよそに、真はそれを和子の完成した艶やかな漆黒の髪に、大振りに優しく噴射しながら最大限に白銀の羽根を広げた。  淡い黄金の光と桜色のシャワーが、彼女と溶け合うように包み込む。  和子は自分にとって究極の香りに包まれた恍惚感に浸り、ついには目尻を下げ光るものが雫となって頬に零れた。 「――ありがとう」  
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