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「つまり、私は自分の反面を他人を通して見てるから恐怖心が出てくるわけですね? うん、分かります。そうかもしれませんね。自分も心があんなならどうしようって」
自分の世界に入って一人納得してる風香を見て、真は背もたれに体を沈め足を組んで顎をまたしごいた。
彼は暫く何か思案してる様子だったが、風香の元気な声に体をビクリとさせる。
「店長! 分かりました! んじゃサッサと窓開けて再オープンしましょう!」
彼女の勢いに飲まれて結局、話は強制終了してしまった。椅子から気持ち良く立ち上がり、閉めた窓のノブに両手を掛け豪快に外へ開く。
その傍らで、真は静かに瞳を伏せていたが小さく息を漏らして考えを切り替え、穏やかな表情を取り戻した。
――いつか“その時”が来るだろう。今はとにかく経験だな、と小さく呟いた声は風香の耳に届かない。
そう。真は風香をよく理解している。だからこそ、ここを開業する時に誘った。その真意を語る事はまだ早いと察知した彼はなかなか気長な性格だ。
「店長ーっ。扉の札、営業中にしますよー」
「ああ、好きにしてくれ。その札を目印にお客さんが来るからね」
外から見れば、海からやってくる迷える魂が狭間の世界で救いを求め、霊気を招く開かれた窓と一際輝いて見える『営業中』の札に歩を進めるのである。
それは果たして自分の意志なのか、ただ導かれるままなのか判断がつかない。
だが少なくとも、この『美容室†TRUTH†』を訪れる者には最後の希望の光であり、最後の分かれ道である。
さて、次はどのようなお客様が来るのであろうか。
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