†偽りの裏†

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「風香くん。ストレートの用意」 「あっ、はい!」  ようやく決まったようだ。珍しく、真の琥珀の瞳が疲れの色を見せていた。  真の一声で思考を遮られた風香が、視線を外しても来店に迷っているのか、黒い影がなかなか近付いて来ない。  彼女は一通り用意を済ませると、真に目配せをする事でその影の存在を報しめる。 「なによアンタ達。お互い変なアイコンタクトしちゃってさ。こっちは鏡ごしに見えてるんですけどー?」  どうやら自分の事を言われてるのかと勘違いしているようだ。ナナの凄みをきかせた視線が二人を責める。ただでさえ血色が悪い上に目元の化粧は濃い。  どんよりと妖しい重圧が二人の頬を引き攣らせた。  それに対し、風香が慌てて弁解する。 「ち、違うんですよ? あの窓の外から黒い影がなかなかこちらに来るようで来ないような……」 「えっ」  突然ナナの表情が固まった。彼女は何かを恐れるように、ゆっくりとそのまま窓の外へと視線を移した。  その様子に真は訝しむ。風香もまたそれは同じだった。  何か関係性があるのだろうか――。 「ナナ様の、お知り合いですね?」  真の言葉に彼女は一瞬眉を潜めるが、正面に視線を戻し小さく溜め息を吐く。しばらく瞳を伏せ、剥がれかけた赤いマニキュアのついた爪を噛みだした。  真と風香は視線を交わし、首を傾げたのは彼女だけ。 「ナナ様、ちょっと失礼しますね」  彼女が急に大人しく悩んでるのをいいタイミングとみて、彼はその場から風香をフロントまで引っ張っていった。 「なにげに腕掴まないで下さいよ。どうしたんですか?」 「彼女、ナナさんはシャンプーしながらどんな香りがした?」 「いっろいろですよ。つかアレって、どういったシャンプーなんですか?」 「あれは、こちらからだけでは読み取れないその人の人生の残像と、昇天できない思念が象徴化して“香り”という形で現れる。まあ……手っ取り早い反面、その先からが複雑な対応になるんだけどね」 「……なるほど。だから店長も子供みたいにムキになって悪戦苦闘してるわけですね?」  いたって真面目に応えたはずの風香の脇腹に手刀が刺さり、彼女の身がねじれ曲がる。 「店長……突っ込むなら言葉でお願いします」  
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