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真は風香からナナの香りを聞き、顎を撫でながら唸る。その間も、ナナはまだ爪を噛み眉間に皺を寄せて自分の世界に入り込んでいる。
ちょうど真と風香は背を向ける形でフロントに立っているせいか、今のナナには彼らの囁きなど何も聞こえていない。
「……なるほど。そうか」
「あのぅ、シクラメンは内気でよかったんでしたっけ?」
「ん? うん、まあ……そうだよ。つまり彼女は実は、内気な性格なんだね」
どうしても互いの頬が引き攣る。
真は囁くようにナナの情報を整理する方向へ話を元に戻した。
「最初に香ったのがライラック。これは“友情”もしくは“初恋の思い出”を意味する」
「はい。どっちもありそうですよね。でも“友情”なのかな? ごぼうの花の香りもしたので」
いつの間にか風香も真のクセが移ったのか、顎に手をあてて摩る。端から見れば、同じ仕草で立つ二人は一種異様である。
「ごぼうの花言葉は“いじめないで”……か」
「しかも、蓬菊(よもぎぎく)ですよ? 花言葉は“絶交”」
ナナには聞こえないように真を覗き込みながら言うと、彼は今まで顎を摩っていた手を止め顔を上げた。
「そういえば、エリカの花もあったんだよね?」
今度は彼が風香を覗き込むように凝視する。あまりに急な至近距離だったせいか、彼女は頬を染め瞳を大きく見開き小さく頷いた。
「さ、最後の最後に僅かに嗅ぎ取れたって感じですけどね。エリカの花言葉は“孤独”ですよね? なんか、だんだん可哀相な感じに……」
「うん。それもあるし、もうひとつの意味は“裏切り”だ。成る程。いよいよパズルが出来上がってきたな」
真の考えが正しければ、ナナが本名を言いたがらない気持ちも分かる。
「じゃあ風香くん。まずはストレート剤塗布手伝って。仕事に戻ろう」
「あ、はい」
彼はそう言うと、飄々としてナナの元へ戻った。彼女自身に問いかける為に――。
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