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わずかな思考が真のアンテナと手の動きを鈍くしていたが、今改めてフル回転させる。
彼女の風貌からして、この世を去ったのはごく最近であろう。だが自殺者ではないのは明らか。ここに自殺者が来る事は無い。自殺した者は同じ場所で何度も同じ行為を繰り返す。何故なら、死んだはずなのに“意識”があるからだ。加えて、“死ななきゃ”という強迫観念が働いている。
やがて真の霊的探りが定まった。
おそらく……事故死。
事故で亡くなったとはいえ、ここまでハッキリした意識となれば確かに心の傷は深いのだろうが。
時系列で考えれば、最後に背負ったのは親友への裏切り行為だろうか……やはりここは鏡の力が必要なようである。
自分だけの力で何とかしたかったのだろう。自分で到った皮肉な結論に、若干肩を落とす。
ようやくシャンプー台での施術が終わり、真はナナを背もたれごと起こした。
「今度は彼女に流してもらうわよ」
「そうですね。どうやら私では力不足だったようで」
「雑なだけでしょ! 下の仕事も手を抜かないのがトップスタイリストよ!」
「う……よくご存知で」
まさかここまで言い切れるとは、と逆に感心したのだろう。真はナナに軽い気持ちで質問した。
「もしかして美容師だったんですか? なんてね」
「そうよ。まだ半端者だけどね」
――へっ?
確かに半端者かもしれないが、最初のシャンプーで言ったナナの気遣いがこれで納得できた。が、そのわりに横柄ではあるが。
志し半ばで断たれた魂、といったところだろう。
真の側で風香は深く頷いた後、次の準備を始める。あの影を目の前にして一人で動き回るには、彼女にとってとても勇気を要した為、真の仕事が終えるのを待っていたのだ。
寝ている体を起こされたナナの目に、窓の外で佇む影が映ると彼女は肩を落として溜め息を吐く。
「アタシは、いつになったら許されるのかな……」
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