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「昨日はなぜたまたまかかってきたと思いますか?」
外村は質問の中に何か別の思惑を感じ取った。
「彼は仕事が思ったより早く片付きそうで終わり次第こちらに来れるかもしれないと言っていたから電話をかけてきたんだろ」
「なるほど、そういうことなら納得です。ありがとうございます」
志津里は微笑みながら言った。
「それだけでいいのか?」
外村が訊くとちょっと考えて、思い出したように口を開いた。
「そうだ、思い出しました。弁護士さんも現場検証とかって行いますよね?」
「あぁ、だから何かね?」
「弁護士さんの意見も参考にしたいと思いまして」
外村は志津里の急な提案に少し面倒臭さを感じた。
「あの、増谷さんは彼のオフィスから裁判の資料が盗まれている事から考えて彼個人に恨みのある強盗だと思われます」
「あぁ、そうらしいな」
「だから分からないんです。増谷さんは休憩所に背を向ける形立っていて仰向けで亡くなったんです」
外村はこの段階では志津里の意図が全くわからなかった。
「最初は自分のオフィスに帰ろうとしたのかと考えました。しかし、これを見てください」
そう言って志津里はタバコを取り出した。
「それが?」
「増谷さんの横にちょっと潰されながら落ちてました。しかも火は着いてないです。と言うことは増谷さんはタバコに火を着けかけたが止めたということです。しかも休憩所の反対側を向いてます」
「だから何が言いたいんだ?」
外村はこの回りくどい志津里の言い方に苛立ちを感じた。
「簡単に言います。増谷さんは恐らくタバコに火を着けかけた時に犯人に声をかけられた。増谷さんは振り向きます。しかし強盗なら後ろを向いても、おかしいと感じると逃げたり防御に出ると思うんですよ。でも彼はきちんと振り向いてる。そしてタバコもやや隠すかの様に持ち変えてます…ということは増谷さんの顔見知りだったんじゃないでしょうか?」
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