第一章 企み

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       1 「あなたが何を言おうと、もう決めた事ですから」 外村孝弘は窓の外の夕日を眺めながら、背中越しに部下の増谷の固い決意を心に感じていた。 「そうか、私が何をしようと無駄だって事か…残念だな」 外村法律事務所は決して大きい事務所ではないが、外村自身はいろいろな分野の人間に顔が利いた。そして政治家との癒着なども当然であった。しかし、今ここにいる熱血弁護士はどうもそれが気に食わなかったらしく、熱血漢特有の正義を振りかざしていた。 「僕は先生を尊敬していた。それだけに残念です」 その声は落胆していた。彼はこれをネタに脅迫することもなく、癒着を止めるよう熱く熱く説得を繰り返した。しかし外村はこの熱い性格が嫌いであり、今この甘い蜜を吸うのを止める訳にはいかなかった。 「君はせっかく優秀なのに、その頑固な性格さえなけりゃな」 外村がそうを言い終わると増谷は無言のまま頭を下げ部屋を出た。  交渉は決裂した以上、外村の次の行動はわかっていた。というよりも最初に増谷に発覚して説得に来た時点から決めていた。 外村は自分のデスクの引き出しを開け、奥にある小さな鞄を取り出した。鞄を開けると中には黒く光る拳銃が姿を現した。
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