第三章 進展

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       12 藤井香緒里は一人事務所の休憩所にいた。 今日は自分でも驚く程に仕事が手につかなかった、当たり前と言えばそうなのだが、こんな事で折れてはいけないとも感じている。こんな事件は滅多にないが、これからも弁護士を続ける上で辛い事はいっぱいある。ここで負けちゃいけない、挫けちゃいけない…香緒里は自身に言い聞かせた。 すると向かいのソファーに誰かが座った。志津里刑事と名前は忘れたが部下の女性刑事だ。 「お疲れ様です」 「どうも。捜査の方はどうですか?何かわかりました?」 「いやぁ、まあぼちぼちといったところです」 志津里は笑顔を見せた。香緒里も笑顔を作るが今日はどうもぎこちない。 「用件がおありなんですか?」 「はい、藤井さんにお尋ねしたい事がありまして」 「もう朝話した通りですけど、何か気になる事でも?」 もう話す事は何もないはずだ…疑われているなら別だけど。 「いや大した事ではないんですけど、これ見覚えあります?」 志津里は内ポケットから証拠保存の袋に入ったボールペンを取り出した。 見覚えはあった。 「はい…どこかで見たことが…」 思い出した。所長が持っていた物だ! 「所長のです!所長が持っていたのを覚えています」 「そうですか、所長さんの物でしたか」 志津里の含みのある言い方が香緒里は気になった。 「でもそれが何か意味があるんですか?そんな袋に入ってますけど」 「いや朝に現場検証した時にこのソファーの下に落ちてまして…落ちていたからどうという訳ではないので。持ち主が判れば鑑識に一通り持っていって返そうと思ったので」 「そうなんですか、わかりました」 香緒里は嫌な予感がした。この志津里という刑事は所長を疑っているのではないか…でもそんな事はあり得ない。強盗の仕業だというのに…
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