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藤井香緒里は一人事務所の休憩所にいた。
今日は自分でも驚く程に仕事が手につかなかった、当たり前と言えばそうなのだが、こんな事で折れてはいけないとも感じている。こんな事件は滅多にないが、これからも弁護士を続ける上で辛い事はいっぱいある。ここで負けちゃいけない、挫けちゃいけない…香緒里は自身に言い聞かせた。
すると向かいのソファーに誰かが座った。志津里刑事と名前は忘れたが部下の女性刑事だ。
「お疲れ様です」
「どうも。捜査の方はどうですか?何かわかりました?」
「いやぁ、まあぼちぼちといったところです」
志津里は笑顔を見せた。香緒里も笑顔を作るが今日はどうもぎこちない。
「用件がおありなんですか?」
「はい、藤井さんにお尋ねしたい事がありまして」
「もう朝話した通りですけど、何か気になる事でも?」
もう話す事は何もないはずだ…疑われているなら別だけど。
「いや大した事ではないんですけど、これ見覚えあります?」
志津里は内ポケットから証拠保存の袋に入ったボールペンを取り出した。
見覚えはあった。
「はい…どこかで見たことが…」
思い出した。所長が持っていた物だ!
「所長のです!所長が持っていたのを覚えています」
「そうですか、所長さんの物でしたか」
志津里の含みのある言い方が香緒里は気になった。
「でもそれが何か意味があるんですか?そんな袋に入ってますけど」
「いや朝に現場検証した時にこのソファーの下に落ちてまして…落ちていたからどうという訳ではないので。持ち主が判れば鑑識に一通り持っていって返そうと思ったので」
「そうなんですか、わかりました」
香緒里は嫌な予感がした。この志津里という刑事は所長を疑っているのではないか…でもそんな事はあり得ない。強盗の仕業だというのに…
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