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すると志津里は話題を変えた。
「ここの花、今朝見たのと違いますね」
香緒里はテーブルのスイセンを生けてる花瓶に目をやった。
「これですか、カサブランカを生けてたんですけど、増谷さんの血痕が付いていたので…」
香緒里の目に涙が浮かんだ。
「そうでしたか…すみませんでした」
志津里は申し訳ないといった表情を見せた。
「いいえ、仕方ないですから」
「すみません。あのカサブランカはいつから飾っていたんですか?」
「それは何か事件と関係が?」
香緒里は少し気になった。
「いえ、ただの世間話です。気軽にどうぞ」
「わかりました。カサブランカは私が昨日夕方に留置所から事務所に帰る時に花屋さんで買いました」
「あなたが買われたんですか?」
「はい。ここの花はいつも私が飾ってるんです」
「そうでしたか、花はお好きなんですか?」
「ええ、息詰まった時に花を眺めるとホッとするんです」
香緒里は好きな花の話になり自然と笑顔になった。
「じゃあこのスイセンは今日買われた?」
「はい。スイセンも好きなので。それに新しいカサブランカを飾る気にはなれなくて…」
「わかります。しかしこのスイセン綺麗ですね」
「ありがとうございます。あの、用件はボールペンだけですか?」
「はい。ボールペンは一応形だけ鑑識に回しますがすぐお返し出来ると思いますので」
「わかりました。ではまた」
香緒里は志津里が帰る後ろ姿を見て何か大きな不安を拭えなかった。
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