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「ボールペンはしばらく前に落としたんだ。休憩所にはあまり行かないからね。そういう事か、心配は無いよ。志津里も大したことは無いと言っているのだから。事件と何ら関係は無い、安心しなさい」
「そうですか。すみません、余計な心配をしてしまって」
「構わないよ。むしろ心配してくれてうれしかった。ありがとう。今日は仕事は終わりだろ、帰りなさい。ゆっくり眠って気持ちを落ち着けるんだ」
「わかりました。また明日からしっかり頑張ります。失礼します」
「じゃあ、また明日」
藤井はそうして部屋を出た。
彼女は尊敬する同僚を殺され、慕っている上司が疑われるかもしれない。心が裂かれる思いをしたのだろう…外村は彼女には少し可哀想な事をしたと思った。ここまでショックを受けるとは思っていなかった。
それと、昼間に志津里が訪ねてきた理由が判った。意見を伺う事なんかはどうでもよかった、それよりもボールペンを持っているかどうかを知りたかったのだ。
外村はそんな志津里の回りくどいやり方に腹が立った。ボールペンは何とでも言い訳が出来る代物だが、おめおめとボールペンを落としたと「証言」した自分自身にも悔しさが残った。
それでも奴は核心にはまだ触れているようで触れていない。結局は奴も証拠を何一つ掴めないだろう…いくら頑張っても逮捕は出来ないと思うと外村は口もとから笑いが漏れた。
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