2 廻り合わせ

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―時は現代、京都―   さわ さわ さわ   朝の風が優しく、柔く、まだ蕾の桜並木を揺らしていた。   そこは【私立壬生高等学校】の裏へと続く一本の細道。 秘密のルートとも言ってもいいほど、知る人の少ない道だった。   そこを一人、桜を楽しむようにゆっくり歩く少女がいた。 楽しそうに揺れる、真っ黒なポニーテール。 どこか懐かしそうな、優しい瞳。 彼女の名は、沖田総。   一昨日、私立壬生高等学校の一年生になったばかりである。   彼女は、一本だけ咲き誇る早咲きの桜の前で足をとめた。   「綺麗ですね…――それにしてもずいぶん、大きくなりましたね」   まるで昔から知っているような口ぶりで、桜に語りかける。 それはそれは、ひどく懐かしそうに。   「あなたは、覚えていますか?」 ゆっくりと手を伸ばし、そのごつごつとした樹皮を、感覚を確かめるように撫でる。   「…私の、こと…」   ひどく寂しそうな響きを持った、一言だった。   ………… しばらくの静寂。   「…ふふ、あなたと話せたならよかったのに。」まるで自嘲するように微笑み、手を話す。   その時。 「あっれー?オキタさんじゃん?」   背後から明るい声が、響いた。 総の肩がびくりと揺れ、ばっと後ろを振り向いた。   「おはよっ!」   そこにいたのは、栗色の髪をした、少年。 まるで小さな子供のような笑顔を浮かべていた。   「あ、えと…藤堂さん、おはようございます」   微かにはにかみ、会釈する。   彼は藤堂平助。総のクラスメイト。   平助は、つかつかと歩いて総の隣まで来た。   「堅っ苦しいなぁっ!平助でいいって♪ クラスメイトだろー?」   ぽんっと総の背中を叩いた。   その仕草に、総は微笑む。 「ありがとうございます。えと、平助さん?」   「えー、【さん】とかつけちゃうー?」 平助は不服そうに唇を尖らせたあと、まぁいいか、と言葉を区切った。   総は困ったように苦笑し、口元を押さえる。 「呼び捨てというのが苦手なんですよ。 あ、私も【総】でいいですよ?」   その言葉に平助は少し驚いたようにしたあと、「ありがとう」とにっこりと笑った。  
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