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そんなアルヴィスを余所に、ローラは後ろに立つ木に手を当てながら二の句を継げる。
「あの子達は、この桜の木と同じ。すくすくと成長はしていても、まだ花を咲かせてはいない。桜は暖かい季節になれば花を咲かすけれど、あの子達にはまだその季節は存在しない」
「つまり、保護者兼戦闘指南役を務めてほしいってわけですか。旅の知識は手取り足取り優しく教えるくらいなら簡単ですが、俺の戦闘訓練は本気で厳しいですよ。他人の子供でも容赦しませんし、下手すりゃ死ぬ可能性だって……」
アルヴィスは真剣な表情を浮かべながら言葉を発するのを止めた。それは警告を意味していた。
自分の受けた教育は、彼が所属するギルドの超が付く程の厳しい教育。
それは、一国の軍隊が受ける教育よりも辛く、並の者ならば簡単に音を上げる程である。下手をすれば命を落とす事もある。それくらい彼の受けた教育は過酷なものである。
しかしローラは、そんな警告を微笑で払い退けた。
「剱の言葉で言うなら。“だが、それがいい”……あの子達には、強くなってほしいから」
「……ローラさん」
「安心して、剱から多少の武芸は叩き込まれてはいるわ。だけど、まだまだ未熟。だからこそ、アルヴィス君にお願いしたいの……」
「わかりました。ギルドの名において、その依頼、確かに賜りました」
それは四人の子を持つ母としての本気の依頼だった。
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