“旅立ちは突然に……”

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 それは天に差し上げられた両手に集中しており、手を差し伸ばしているのは大人びた印象を与える金髪の少女である。小柄で、華奢な少女だ。  少女が閉じていた目を半眼にし、琥珀色の瞳を覗かせると、煌めきが一気に膨れ上がって集積する。そして、凄まじい奔流となって撃ち放たれた。  銀髪の少女が飛び退いた丁度その場所に戻り、煌めきの奔流は先の一撃で動きを止めた“なにか”に吸い込まれ、爆発する。  微細な粒子の一つ一つが、人間など跡形も残さず消滅させるに足る稲妻へと変わった。地獄の底から呼び出されたような稲妻は、無数の閃光の乱舞で“なにか”を包む。あるいは、“なにか”そのものの闇を切り裂き、その巨体を幾度も震わせていく。  だが、全てを揺るがす二度の強大な攻撃を受けてなお、“なにか”はその邪悪な生命力を失ってはいなかった。それどころか、より一層の悪意を剥き出しにし、妖気を強めると、腕を持ち上げる。ぬらりと紫に光る爪は、金髪の少女の身の丈より長く、銀髪の少女の剣より鋭く見えた。  ありったけの力を篭められた爪の一撃が解き放たれ、無防備になった金髪の少女に振り下ろされた。
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