“旅立ちは突然に……”

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 その瞬間、割り入った影が獣でも持ち得ない程の速さで、その爪に立ち向かった。片方の手に握られた剣で、爪を弾き返し、更にもう片方の手に握られた白銀の銃口から放たれた闇色の閃光が、一本の爪を撃ち砕く。  それを成したのは、黒髪の青年だ。青年の爛々と輝く金色の眼差しは、ただ敵のみを見据え、離さなかった。  再び白銀の銃を素早く構えると、青年は目を閉じ、大きく息を吸い込む。無駄の無い肉体にぞっとするほどの気が集中し、金色の瞳が魔性の光を帯びた。  そして、青年は溜め込んだ力を銃に篭めて解き放つ。銃口より吐き出された輝く暗黒の火球が“なにか”の頭部と思われる場所にぶつかって弾けた直後、閃光と灼熱が膨れ上がり、大爆発が起こった。重密度の閃光と、高温の衝撃波が撒き散らされ、大気が激しく震動する。  全てを蒸散させてしまう爆炎に包まれた“なにか”の巨体が揺らいだ。揺らぎながら、それでも、口腔に力を集中させる。噛み合わさった太い牙の隙間から、ちろちろと赤黒い炎が漏れ、吐き出された。  鉄すら一息に溶かす煉獄の焔(ホノオ)が降り注がれようとしたその時、凄まじい風と轟く稲妻が、艶やかに輝く不思議な浅黄(アサギ)色の盾となって彼らを守り、風と稲妻を融合させた盾を放った二人の青年が、翼を羽ばたかせ、愚かしいほど突出した位置に降下し、仁王立ちしながら焔を二人の力で受け止めた。
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