“旅立ちは突然に……”

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「……」  目を開けると、そこは自分の部屋だった。――またあの夢か――と呟いたのは黒髪の青年だった。  上体を起こし、机の上にあった煙草の箱に手を伸ばす。箱から煙草を取り出し、それを口にくわえ、火を点ける。 「……」  煙草をくわえ、彼は部屋の窓を開けた。窓の外はまだ夜明けで、少しだけ冷えた風が吹く。 「“あの夜”も、こんな感じの風が吹いてたっけな……」  青年が小さく呟いた。しばらく前の夜の事を思い出していた……。  突如、台風のようにして現れ、あっという間に夜空に開いた謎の穴から元の世界へと戻って行った“剱”(ケン)という男と、天を覆う程の巨大な化け物……。  あの日から、この不思議な夢を見るようになった。最初は一瞬だけの夢だったが、日を増す毎に夢を見る時間が長くなり、今となっては先程までの長さに至る。 「この夢も、あの日を境に見るようになったな……」  毎晩その夢を見る度に、夢を見る回数が多くなる度に、青年は思う。  誰かが意図的に見せているような気がする、と……。  だとしたらいったい誰が、どんな目的で……?  そして、この夢にはいったいどのような意味があるのだろうか……?  しかし、それらは全て仮説の域である為、無闇に決め付けるのは賢い者がする事ではないし、もしかするとあの剱という男の“気”を少しでも受けた影響かもしれないが、予測は尽きない……。  深く考えても仕方がないか、と青年は煙草を吹かしながらいつもと変わらぬ静かな町並みを、少し離れた高台にある自分の家から見下ろした。image=410418998.jpg
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