“旅立ちは突然に……”

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「アル。アル、起きなさい!」 「……う……ん?」  いつの間に眠っていたのだろう。熟睡している青年に、誰かが体を揺さぶりながら起こしている。 「……なんだ、フィリーか」  鉛のように重い瞼をゆっくりと開けるとそこにいたのは、金髪の少女だった。その表情は少し怒っているようにも見えるが、青年はそんな事などお構いなしに再び寝に入ろうとすると、少女は彼の頬を力いっぱいに抓る。 「い、イデデデデ!!」 「いつまで寝てるの、もうお昼よ?」  無表情になる少女を見て、青年は跳び起きた。これ以上、寝に入ろうとすれば間違いなく手痛い一撃を喰らうのは目に見えていたからだ。 「きちんと起きられるじゃない。おはよう、アル」 「あ、あぁ。おはよう、フィリー」  青年の名前はアルヴィス=クレイメンテ。とある世界にある、とある国の青年で、暗殺から要人の護衛まで務めるとあるギルドに所属する青年である。  そんなアルヴィスをたたき起こし、無表情な顔付きが一変し、優しく微笑む少女の名はフィレイス=クレイメンテ。  黒髪のアルヴィスとは対照的に、金色の髪をしたフィレイス。二人の容姿は掛け離れているが、彼とは双子の姉弟である。  フィレイスは光の加護を受けている為、精霊の声を聞いたりする事ができ、時には自身の体を触媒として精霊の力を借りて戦う事も出来る“精霊術師”の少女である。  ちなみに、フィレイスの髪が金色なのは、その光の加護を受けているからである。 挿絵提供――琴まさみさん――image=412394848.jpg
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