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紅い月が出る夜、中央1区を覆うドームの前に立った。
地下都市の金持ちしか居ないこの地区は、専用の通行パスに警備員による荷物検査がなければ入る事が出来ない。
ゲートに立つ警備員に声を掛け、パスを見せてニッコリと笑えば、厳重な荷物検査も単純なものへと変わった。
簡単にドームの中に入り、異常なまでの視線を感じるもそれは、中央1区を監視する名ばかりの監視局のカメラで危害を加えるものではない。
水を打ったように静まり返る住宅街を1人歩いていれば、バイオリンケースを持った黒髪の小柄な少女が目の前を駆け足に横切って行った。
私も少女が向かった方向に道を曲がり少し歩けば一際大きい住宅が姿を表す。
「此処が…桜木邸か。」
呟き見上げた先の門は青々と茂った茨がびっちりと絡み付き、来客を迎えるように扉が開いていた。
「つくづく不気味な野郎だな…桜木龍一…。…っ!!」
庭に敷き詰められた白砂利を踏み敷地の中に入って行けば、先程横切って行った少女が足元にうつ伏せに倒れていた。
「なっ…、だい…」
「いったーいッッッ!!!あーん、もうっ!!」
反射的に少女を避け、警戒しながらも声を掛けようとした瞬間に勢い良く起き上がった少女は、私の存在に気が付かないままヒステリックに砂利を蹴散らし家の中に入って行ってしまった。
どうやら桜木龍一には同居人がいたらしい。
小さな少女を手に掛ける事は少々気が引けるも、任務だと割り切り少女の後をついて家の中に入り込めば、自動的に閉まり固く施錠されてしまった扉に自然と笑みがこぼれた。
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