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姫野と僕の視線が冷たくぶつかりあう。美代子と名乗った女性に抱きしめられたままで。
この状況を最悪な状況と呼ばないで、他に何を最悪な状況と呼ぶのだろう。
僕はあまりにも最悪なタイミングの姫野の登場に、思わず現実逃避をして、今、自分は夢を見てるに違いないと思い込む事にした。
結構、リアルな女性の柔らかい身体の感触を感じているけど、これはきっと夢に違いないと思い込む事にした。
「暦くん……何で……?」
姫野のリアルな声で、一気に僕は現実に引き戻された。
姫野の表情を伺うと、彼女の瞳が小刻みに揺れていた。
動揺と困惑がはっきりと伝わってくるようだった。
「姫野。まずは落ち着こう。俺もかなり動揺してるけど、まずはお互い落ち着こうよ」
僕はできるだけ優しく刺激しないように姫野に言い聞かせる。美代子に抱きしめられたままで……。
「大っ嫌い!」
何故か姫野から死にたくなる程の痛烈な言葉が返ってきた。
そして、姫野は涙を滲ませた目で僕を一度だけ睨み、駆け足で屋上から出て階段を降りていった。
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