死角にあるもの

【初日】

　仕事の内容はいたって簡単なものだ。いわゆる事務処理で、専門的な知識は一切必要としない。

　しかも住み込み可だ。
　これは現在住むところがない安藤にとって、願ってもない話だった。

　しかし、事務所として連れられたのは、高級住宅街として世間には知られているようなところ。
　その中でもひときわ大きい木造の日本家屋であった。

　大口を開けて屋敷を見上げる安藤をよそに、涼子は道に面した戸口の鍵を開けている。
　そのまま先に敷地内に入り込むのを見て、慌てて安藤も後にならった。