旅人

2/2

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「この土地で最後か……ここにも無かったな」  男は、もう随分長い間、『眼』を探して旅をしている。  旅を始める以前、男は強欲で己の力に溺れる愚かな王だった。苦しむ民の姿に心を痛めた神は、男の視力を奪い、代わりに一匹の猫を与えた。 ――この世の全てを探すがよい。御主の『眼』をそこに預かる。猫が旅の光になるだろう――  長い旅の間、暗い世界で己の無力さを知り、過去の傲りを恥じ、人々の暖かさと尊さを知った。  常に、その傍らには一匹の猫がいた。  すり寄る体をなでてやりながら、男は猫に話しかけた。 「『眼』は見つからなかったが、これで良かったのかもしれん。……俺は故郷に帰り、民に詫び、盲目のまま、ただの一人の男として暮らそうと思う。それでもお前は側にいてくれるか?」 「ニャアァ」  猫は答える様に一声鳴くと、前足で寄りかかり、男の額に自分の額を合わせた。その瞬間、男の瞳に光が戻った。 ――『眼』は常に御主と共にあった。必要だったのは、その『心』。国に戻り、その『眼』で民を導くがよい――    男は民を愛する王となり、国は豊かになった。  その傍らには、いつも一匹の猫がいた。  image=223634061.jpg
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加