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三味線の音と共に、なんとも言えぬ美しい唄が聞こえた。
夜更けの山道で、空耳かと思った瞬間、目の前に女が立っていた。
「今の唄は、そなたが唄っておったのか?」
女の肌は、夜道でも分かるほど白く、この世のものとは思えないほど美しかった。
「お望みとあらば、もう一度唄いましょう。代わりに、あなた様の命の火を、少しばかり頂いても構いやしませんかい?」
男は、命の火と言われてもピンとこなかったが、何をくれてやっても構わないと思った。
それほどに、唄は美しく、どうしても再び聞かずにはいられなかった。
「構わん。命の火とやら、好きなだけくれてやる。さ、唄ってくれ。」
男の返事に、にんまり笑ったかと思うと、女は三味線に合わせて唄いだした。その美しい音色の中で、男の意識は薄れていった。
「おい、あの峠の鬼の話、聞いたかい?」
「なんだい、そりゃ?」
「美しい女の鬼が出て、唄の代わりに、おめぇの命を少し分けてくれって言うんだと。」
「命やる馬鹿が、どこにいるってんだい?」
「それもそうだな。はははっ!」
唄は蜘蛛の糸の様にあなた様の命の火に絡み付いて、決して離しやしませんよ。
お望みなら唄いましょうか。
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