追跡者

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蘇芳は右折するや否や路面に沿って続く、高さ2メートル程の塀を乗り越え身を隠した。そして手早くアーチェリーを引っ張り出し、矢を装填する。 複数の足音が近づいてくるにつれ、神経繊維の末端まで緊張感が伝播していく。 幸い、塀には意匠としての穴が開いており、路上の様子は手に取るように分かる。 「何処行った!あのガキ!?」 勇んで駆け込んできた男の一人が、焦りを隠せぬ表情で周囲を見回す。 「落ち着け」 「あそこか!?」 数メートル先の、一方通行の標識が左を指している。自動車一台が辛うじて通れるくらいの道である。 『黒羊』が獲物を逃すまいと、走り出す。 「おい、逸るな!」 制止の声を振り切って、金糸の刺繍の入った黒い背中が脇道に消えたのと、 「――ーぐっ!?」 残された男がぐらりと上体を傾けたのが、ほぼ同時。 カラン、と乾いた音がし、アスファルトに細長い棒状の物体が落ちた。 「おい!?」 異変を感じ、引き返してきた黒羊は、咄嗟に横道に戻り塀を背にして警戒する。 見回しても、通りに人気はない。 何が起こったのか。 分からないが、兎に角自分達の計画は失敗したということだ。 あのガキが俺達の尾行に勘づいていたとでも言うのか? まさか! 平和呆けした日本人の高校生だろう? 百歩譲って多少警戒されていたとしても、何が出来る? もしや、第三者からの妨害が入ったのか。 黒羊は溢れる疑問符を、一旦断ち切ることにした。 倒れた男、『鼬(イタチ)』に息はあるのか。 ここは日本。路上に倒れた人間を見てみぬ振りしてくれる場所ではない。 黒羊は塀を背にし、辺りに目を配りながら鼬に近寄っていった。うつ伏せに転がった体の、およそ3メートル手前。 鼬に目立った外傷は見当たらない。 鼬、と声をかけようと口を開きかけた声は、 「―――Hold up」 予期せぬ妨害を受け、凍りついた。 ごりっと脳天に当たる硬質の感触に、肉体までもが硬直する。
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