追跡者

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ややアラビア語訛りだが、申し分のない日本語だ。 「高校生だよ、俺は。普通の」 「日本の普通の高校生が、拳銃を所持してるのか?」 「コレね」 グリッと右手を捻り、蘇芳は後頭部を圧迫する。 細い円柱形の輪郭が当たる感覚は、余り気持ちの良いものではない筈だ。 「それはノーコメント。ただ、うちの親がちょっと普通じゃないかも・・・さて」 蘇芳は制服のポケットから小瓶を取り出し、片手で器用に栓を外し、制服の左袖に中身を振り撒いた。 「オヤスミ」 袖を男の鼻と口に押し当てる。 ―――1分、2分、3分 「・・・そうだ。お宅の連れは、死んだ訳じゃないから安心しろよ。脳震盪起こしてるだけだから。 ラバークッション付けてたとはいえ、相当な衝撃だったはずだから。 タンコブ位出来てるとは・・・おっと」 言い終わらぬうちに男の身体が弛緩し、もたれ掛かかってきた。 よいしょっ、と脇の下に両腕を差し込み、引きずって塀に沿わせる。 ふぅ、と一息つく。 そして、 「ね?・・・俺は普通の高校生なんだって」 意識のない男に向かい、悪戯っぽく言葉を投げ掛けた。 そんなに買い被らなくてよかったのに。 ペロリと舌を出すと、蘇芳は後頭部に押し付けていた試験管を、ポケットに放り込んだ。 これで一先ず安心だが、まだ気は抜けない。 まずは自分の靴の紐を抜き取りにかかる。 眠っている二人が目覚める前に、拘束しておかなければ厄介だ。 彼らの靴からも当然失敬させて貰い、不足分は制服のシャツを裂いて補うことにする。 猿轡まで噛ませたところで、顔を上げる。 聞き慣れないエンジン音が近づいてきているのに気付いたのだ。 磨き上げられた、シルバーのボディ。 アストン・マーティン、DB9。クーペタイプのスポーツカーである。 車は蘇芳の傍らで音もなく停車し、ウインドウが開いた。 「お待たせ~」 ハンドルを握っていたのは、秋月鷹祐。 「お前ね、何でスポーツカーな訳?」 「早く来いって言ったじゃん?」 蘇芳は、げんなりした表情で後ろを指す。 「コレ、どーすんのさ」 芋虫のように転がる、二人の外国人。 DB9の乗車定員は二名、後部シートはない。 「後ろに押し込んじゃえば?」 カチャリ、とトランクのロックが解かれる。 「じゃ、コレは?」 鷹祐は、息子の身長とそう変わらぬアーチェリーケースを見上げた。 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」
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